再び出迎え役として顔を合わせたは、戦果を手にほくほく顔の同僚たちに軽いねぎらいを飛ばしていた。
 征服地で何が行われたかを知らぬわけでは決してあるまい。彼も長曾我部の兵なのである。
 彼の平静さは、度を過ぎた略奪が当たり前であることを雄弁に語っていた。

 「お頭、此度の戦勝、おめでとうございます」
 「おう! お前も首尾よくやったか?」
 「上々です。しかし、あまり放置すると傷みますよ」
 「ああ、わかっているさ」

 何の話であろう。は敵船の拿捕を命じられていたらしいから、収奪した武器弾薬や食糧の話であろうか。元就はそう推測する。
 港では、浮かれ騒ぐ兵たちが各々家族との再会を喜んでいる。その光景を見渡した元親は、海の男らしい大声で、日暮れには館に集まるように、と布告した。

 「日暮れとは、早すぎぬか」

 勝ち戦であったとて、処理すべきことは多い。消費された食糧、軍備、船の損傷具合、手にしたものの算出。
 事がなった暁の方が煩雑であることの筆頭が戦争である。
 しかし元親は、辛気臭い智将の意見に不可解極まりないとでも言いたげな顔をした。

 「何言ってんだ。宴だぜ?」

 正に彼は海賊であった。
 これでよく四国がたちゆくものである。呆れる元就に宴で会おうと元親は囁く。

 「折角気分がいいんだ、あんたとしっぽり愉しみてぇもんだが、が急かすからな」
 「私のせいではありません。腐りやすいのがまずいのです」
 「やれやれ。今度、保存用の火酒でも南蛮から買うとするか…」

 いつものところだなと確認し、元親はその場を離れた。は主に付き従うかと思ったが、意外なことに彼はその場に留まる。
 は、元親の秘密を知っているのが誇らしくて仕方ないとでも言いたげな笑みを含んで元就に向き合った。
 此度のご協力ありがとうございます。その不愉快な礼儀正しさに、元就は些細な苛立ちを覚える。

 「出迎えご苦労」
 「館に湯を用意しております」

 どうぞ疲れを癒してください。そう言うの前を通り過ぎようとした元就であったが、手甲に覆われた手首をがぱしりと捕らえる。冷たい。屍肉の感触であった。
 眉を寄せた元就を、は複雑な微笑で受け入れる。入り混じるのは憎悪か、羨望か、悲しみか。
 死した今となっては最早何の意味も持たぬものを両手に抱え、はそっと生者に囁いた。

 「それとも、お頭の秘密をご覧になりますか?」




カラリ、カラカラ、カラリ




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091030 J