春も夏も秋も冬も、あんたと共に数えたかった。

 幸村、それはオレの願いでもあった。
 もういない人の手紙を受け取った政宗は、これを最後と思いきる墨字に口付けを落とす。
 紙からは幸村の匂いがしたように思った。気のせいだった。

 なあ幸村、あんたは何を思って手紙を書いた。

 その目に桜は、蛍は、紅葉は、雪は、見えただろうか。
 幻視の中に遊んで佐助の菓子を味わい、隣に立つ政宗のぬくもりを感じただろうか。
 独りで逝ったあんただが、手紙を書くその瞬間は、あんたの傍にオレたちがいただろうか。


 吐息が手紙を湿らせる。
 この手紙は遺書だ。
 幸村は、自分にはもう決して見られぬ光景を綴り、政宗たちに渡して、自らの葬式を出したのだ。


 全く酷い奴だ。
 勝手に葬式の片棒を担がせて。

 世を去った喪主に文句をつけてやりたい。
 けれども政宗の顔に浮かんだのは、子供の悪戯を許すような苦笑だった。


 あんたの弔いができて良かった。
 共に過ごしたかった穏やかな時間を、死んだあんたが用意してくれた。
 ひょっとしたら、幸村は無意識にそれを見越していたのかもしれない。
 幸村は愛されたことに自信をもっていたから。


 最後の別れを、少しずつ告げていたのだろうか。


 幸村は、政宗と佐助が彼の喪失を嘆くだろうと信じきっていた。
 事実その通りである。
 だから最期の思い出を積み重ねて、政宗たちに自分の不在を思い知らせていったというのは邪推だろうか。

 誤算があったとすれば、彼が思った以上に、政宗も佐助も脆かったということ。
 彼の遺書を良いように解釈して、幸村が生きていると妄念の中に浸りこんだ。
 もし彼が彼らの弱さを知っていたら、こんな遺書は残さなかったかもしれない。


 ひとり、向こう岸へと去っていった幸村。
 彼は最期に政宗たちに甘えて、甘えさせてくれた。
 この遺書が彼の願いだというのなら。

 「いいぜ、幸村」

 最期の最後まで付き合ってやる。
 これ以上無く完璧に、そこにあんたがいると錯覚するほどに。
 それがオレの弔いだ。
 誰にもこの役目は渡さない。オレがあんたを弔う。



 あんたの生も死も、オレのものだ。