高く晴れ渡った秋空に、雲が薄く刷かれている。
 それを縁取る山々は赤に黄色に彩られ、そこへと続く道には彼岸花がその頭を揺らし、里には金色の稲穂が甘い秋風にそよいでいる。
 政宗と佐助は、彼岸花の導く畦を黙々と進んだ。
 艶めく花弁を炎の形に象った彼岸花に幸村を連想する。
 苦い笑いが胸に広がる。
 火の粉を散らす死人花に導かれた先にあるのは、黄泉からの孤独な解放か、あるいは甘美な虚無の褥か。


 ――――紅葉狩を、いたしませぬか。


 幸村、あんたは何を考えて、こんな手紙を残して逝った。
 死者との思い出を作っていくなどという不吉な行動をどうして取った。
 オレたちの仄暗い幸せなんか、あんたの望むところじゃなかったろうに。

 政宗はちらりと佐助を見遣る。
 前日から台所を占拠して憑かれたように重箱を詰め続けた佐助は虚ろな微笑を貼りつけて、己の殻に籠った硝子玉のような瞳を爛々と輝かせている。
 あんたはこんな忍を望んでいたか。
 佐助は手紙を受け取るまで、頑なに幸村を模していた。
 「猿飛佐助」を忘れたように、ひたすら「真田幸村」を写していた。彼の世界にはもう幸村以外の声は無い。


 白状すると、ほんの少し羨ましい。
 佐助の行った世界は恐ろしく空虚で寂しいけれど、己にとってもそこが幸せであろうことは疑うべくもない。

 だが政宗は、そこには行かない。

 視線を戻し、鮮やかに彩られた山を見上げる。
 政宗殿、ともう一度聞こえた。
 お前に会いたい。黄泉へと去った愛しいひと。


 ――――真田幸村、お前は最早、死んだのか。