真田幸村は生きている。


 それは佐助にとって疑いようもない真実だ。
 それを壊すというのなら、誰であろうと容赦はせぬ。

 右目の旦那、見てごらん。
 幸村がそこにいるだろう。

 秋晴れを気持ちよく駆け回り、槍の稽古に精を出す、幸村がそこに、いるだろう。

 見えないなんて言わせない。
 幸村がいないなら、佐助がここにいるはずはないのだから。
 佐助は幸村の影だ。幸村がいないなら、影ができるはずがない。

 俺様が生きているのが良い証拠。
 幸村はほら、ここにいる。
 ねえ、見えるでしょう。
 真田幸村は生きているよ。

 腕の傷、痛そうだね。
 引っ掻いてしまって申し訳ない。でも、あんたもこれでわかっただろう。

 そんな憐れむような目を向けないで。
 ここにいるのは幸村だ。
 憐憫を受ける理由は、どこにもない。





 熱を灯した指が腰を這う。
 ぬぷ、くちゅ、粘着質な音がそれを追って鼓膜に届いた。
 否、それは体内から響くのか。
 卑猥に濡れた音たちが、嬌声となって己が喉仏を震わせた。宙空に放る、自分ではない声。

 佐助があげた幸村の嬌声に、政宗が噛みつくような口付けを落とした。

 激しく口内を蹂躙する舌に呼吸さえもままならない。
 押し開かれた体が僅かな振動にも反応する。背筋を駆け抜けた快感は声となって散る前に政宗の喉に消えた。
 背中に回した指が彼の皮膚を裂いたのか、ぬとぬとと指を濡らす感触がやけに意識を刺激する。
 口付けの狭間、幾筋もの唾液の糸を引きながら、上気して汗まみれの政宗が囁いた。

 「幸村」

 ああ、幸村は、ここにいる。
 その一言が、肌を這う指よりも穿たれた楔よりも圧倒的な快感を、佐助にもたらしたのだった。