政宗の目には、供された甘味に嬉しげに目を細めた幸村が、やがてこちらに振り返ったのが見えた。
 幸村が微笑むたびに蛍火が揺れる。
 そこだけ月明かりが差したように、清らかに蒼い。


 胸に迫るほど、清らかだった。


 天に星月、地には露。
 どちらが上でどちらが下ともわからぬ銀の光の屑に囲まれて、蛍火と月光を従えた幸村は、目が眩むようだった。

 「少し歩かねぇか」
 うるさいほどの光から遠ざかって。
 あんたの居所は光の中なんかではなく、オレの隣だ。

 攫うように手を取って、光の無い道に連れ込んだ。
 幸村は抵抗したようだったが、知ったことではない。

 蹴散らされた露が、幸村の手を握りこんだ掌に飛んだ。
 政宗はそれを気にも留めない。
 手を握り込む形に保ったまま、暗闇へと分け入っていく。
 水の匂いが遠ざかる。蛍の灯も消えた。

 夏草の匂いが、濃かった。