『政宗殿へ

 先日は素晴らしい花見の宴を催していただき、まことにかたじけない。
 成程、月明かりに見る桜とは、昼日中の美とはまた違った趣がございますな。
 団子も大変美味でござった。佐助も腕を上げたのやも知れませぬ。
 政宗殿とは刃を合わせてばかりでございましたゆえ、桜を肴に静かな時を過ごすというのは、実を言うとどうにも気恥ずかしい思いがござった。
 しかし、それは拙者の食わず嫌いでござったな。
 穏やかな時間を、政宗殿と共に過ごせるというのは、本当は何にも代えがたいものでござった。
 重ねてお礼つかまつる。

 さて、そろそろ夏が近づいてきた頃と存ずるが、そちらはいかがでござろう。
 奥州は北国ゆえ、こちらよりも涼しいのでしょうか。
 今年の稲の葉を揺らす風は、爽やかなものであって欲しいものです。暑すぎては、稲も農民も茹であがってしまいますから。
 そういえば幼少の折、拙者も頭を回したことがあるのです。
 ご存知でしょうが、この時期の田圃や小川では蛍が乱舞いたします。幼き頃の拙者はその最初の一匹が蛍火を灯すその瞬間が見とうて、昼間からじっと夏草の隙間を眺めておったのです。
 気がついた時には板の間に転がり、佐助が額に手ぬぐいを載せておりました。
 蚊帳の向こうで、蛍が夜を泳いでおりました。
 あの時の光が妙に頭に残っております。

 蛍というのは、切ない色に光りますな。
 ゆらゆらと頼りなく飛ぶ光たちには、息をつめて静寂を守らなければならないような、そんな必死さを感じてなりませぬ。
 いつだったか、蛍は短命であるゆえ命懸けて光を灯し、己の証を残すのだと佐助が言うておりました。
 政宗殿は、そのように感じたことはございますか。

 政宗殿。重ねてのわがまま申し訳ございませぬ。
 ですが、いかがです。


 共に蛍火を見ませぬか。


 提灯一つぶら下げて、夕闇の道を歩きましょう。
 柳の葉擦れを聞くのも良い。
 竹筒に甘露を入れ、暑さを感じればそれで喉を潤して、蛍火の群舞を見物しましょう。
 騒いではなりませぬぞ。
 限りある命たちの、真剣な輝きでござる。息をひそめて、居ずまい正し、真摯に臨まねばなりませぬ。



 佐助には水羊羹を言いつけて下され。
 葛餅と水饅頭もお頼み申す』






 二通目 夏、蛍狩