佐助の主は、とても酷いひとだ。
 いつだって佐助を自由にしてくれない。
 彼の中心は佐助なんかではないくせに、さも当然の顔をして佐助の中心に居座る。

 佐助の中心は幸村だ。
 だから佐助が生きているのは、幸村が生きているからだ。


 二通目の手紙を受け取った。生きていると思った。
 宛名の無い手紙は幸村の言葉を伝える。それが佐助を生かす。

 だから幸村は、死んでなんかいない。

 幸村が死んでいるなら、佐助だって死んでいるのだから。


 ――――ここに手紙が隠してある。

 ――――それを政宗殿に渡しておくれ。


 けれど幸村の中心は、佐助ではない。
 桜の花影から、抱き合う一人の背中を見ていた。
 虚空を抱いた腕の中に真紅は無い。
 それでも彼らは抱き合っていた。

 きっと朗らかに笑っていたのだろうと思う。
 それを思うと憎らしかった。

 ――――政宗殿に渡しておくれ。

 思う。これを渡さなかったなら。
 そうしたらあの男の幸村は死ぬ。幸村と生きていけるのは、佐助だけになる。

 それは目眩がするほど幸せだろう。

 言葉一文字、墨の一滴まで、幸村は佐助だけのものだ。
 二人だけで、寂々と滅んでゆける。

 ――――政宗殿に渡しておくれ。

 ねえ、旦那、あんたやっぱり阿呆だよ。
 佐助が素直に渡すと思ったのだろうか。だとしたらとんだ策士もいたものだ。
 俺様はね、ずっとあの男が嫌いだったんだ。何故って、旦那をひとりじめしてしまうから。
 隠された手紙を探さず、自分のための手紙だけを集めれば、幸村は佐助だけのものになる。

 ――――政宗殿に渡しておくれ。

 あんたは俺様を欠片も疑ってはいないね。優しくて残酷な佐助の主。
 幸村に従うことが佐助の幸福なのだった。


 ――――政宗殿に、渡しておくれ。