覚悟をしたのが馬鹿みたいだった。
 彼の最期の手紙に息衝いていたのは、昔と何も変わらぬ幸村だった。

 ひたすら団子団子と繰り返す文面に堪えていた笑いが漏れる。
 零れたのは涙だった。

 「猿、幸村の手紙だ」

 あとからあとから涙が溢れる。顎を伝って床に落ちた水滴を、政宗は顧みようともしない。
 失くしたと宝物を見つけた子供の喜びともいうべき衝動が、感情を溢れさせた。

 「たく、最期だったくせに」

 真田幸村は死んだのだ。
 その身を赤く染め上げて、戦場の恍惚の中に消えた。
 手紙は、その激情の直前に書かれたもので、それなのに遊びの誘いのような気軽さを持っているのが不釣り合いだった。

 手紙は遺書だった。
 恋文でも、時候の挨拶でもなく、遺書だった。
 けれど遺書は、遊びの誘いだった。

 ――――共に夜桜を愛でませぬか。

 震えも乱れも無い墨字を辿る。
 まるで昨日書かれたように、摺られたばかりの墨の匂いを感じる。
 綴る手のぬくもりまでも伝わるようだ。

 ――――共に夜桜を愛でませぬか。

 まだ己がこの世にいるような気軽さで、幸村は政宗に微笑みかける。
 いつも通り佐助に団子を所望して、佐助は呆れと喜びの入り混じった顔をした。

 真田幸村は、死んだのだ――――…?



 桜の季節にはまだ時がある。
 政宗は、そっと決めた。


 「なあ、幸村、来るんだな」


 一番綺麗な桜の席と、佐助のこしらえた団子を用意して、いつまでだって待っている。
 お前が来るというのなら、ずっと、ずっと。