『政宗殿へ

 奥州の冬は、融けたでしょうか。
 そちらの春は一時に来ると言っておられたのを思い出します。桜ならば、上田とて負ける気はしませぬが。
 薄紅色に煙る上田の水田を見せてやりたいものです。
 農民たちと田楽を見ながら味わう団子は言葉にできませぬ。

 いつだったかの花見を覚えていますか。
 手取川にて、お館様と謙信公と、和やかな時を過ごしましたな。
 あの時も見事な桜でございました。
 佐助の拵えた桜餅が舌にも目にも甘く、いつもは菓子などあまり召し上がらない政宗殿も割合気に入っておられた様子でした。
 その時教えて頂いたずんだ餅とやらも食べてみたいものです。

 そういえば、慶次殿にも花見に誘われたことがござったな。
 京の桜は格別だとか。
 恥ずかしながら祭りの方にばかり熱中しており、肝心の夜桜はとんと記憶にございませぬが。

 月明かりとも日の光とも似つかぬ祭りの灯火が流れるようでありました。
 政宗殿と疾った京の小路ばかりを覚えております。

 しかし考えれば惜しいことをしたかもしれぬと、今になって思います。
 祭りは実に良きものでございましたが、団子を肴に愛でる夜桜もなかなかのものであったことでしょう。
 ついては政宗殿、ひとつ頼みごとを聞いては下さいませぬか。

 共に夜桜を愛でませぬか。

 朧月の晩、ずんだ餅をこしらえて、一番綺麗な桜を見ましょう。
 もしかすると兎が団子を携えて来るやもしれませぬ。
 政宗殿のことですから、漢詩の一つでも口ずさまれるかもしれませぬな。拙者は不作法者ゆえ、朧月夜の舞など舞えはしませぬぞ。



 佐助には花見団子を頼むと言いつけて下され。
 桜餅とみたらし団子もお頼み申す』





 一通目 春、花見