深度14 : 深星魚 大学時代を過ごしたアパートを引き払い、会社の独身寮に引っ越して数日が経った。海に近いので、窓を開けていると時々潮の匂いが届く。元親が夕飯の準備をしていると、懐かしい相手からメールが届いた。写真付きのメール。開ける。 『元気ですか。おれは元気です。長野の天文台で働いています。あの町より星がきれいです。でも、おれはきっと、あの町で見た全てを忘れません。お前と過ごした時間は鮮やかだったと思います。あの頃、おれたちはきっと、星底のスペクトルで生きていた。これからお前が、たくさんのきれいなものを見れますように』 どうやら、これ以上ない場所で楽しくやっているらしい。それも、元親を忘れることなく。添えられた写真には、新居だろう部屋が映っている。部屋は相変わらず整頓されているとは言い難い。しかし、大目に見れる程度には片付いている。真ん中で、少し所在なさげにしている彼は、少し大人びたようだ。曖昧な微笑。目に仄かな生気。棚には、テープででも繋いだのか、元親が壊したプラネタリウム。ポスターにしろ雑誌にしろ天文関係ばかり。しかし一つだけ。写真立てに飾られているのは、魚のポストカードだった。あの水族館で買ったのか、赤紫と青で染色された透明標本、そのポストカード。生命の気配。 素直に嬉しいと思えた。恒星と惑星の間を漂っていたに、生命を教えたのは元親だろうから。 元親は携帯を閉じる。窓から、春の夜を見上げた。星の名前はわからない。一昨日が新月だったから月齢は三。 ここは、星の底。
星底の魚:了
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