兄貴が突然真面目な顔をして話しかけてくるものだから、なんだのっぴきならない大変な事件でも起きたのかと、本気で(相手が)心配になったのだが、果てさてその話といえば。「恋人ができた」のだそうだ。へーほーふーん恋人。この度相手の意思確認のうえ俺に紹介したいということで。
兄貴といえば、名をバージル、魔剣士であるスパーダを父に、人間であるエヴァを母に持つ、俺の双子の片割れである。銀髪碧眼は揃い、身長もほぼ同じ。十年ほど前に傍迷惑な塔をおっ建て悪魔の力を求めた兄貴と俺は殺し合いまで演じて、その結果、俺は兄貴を失った。しかし数年前にマレット島でネロ・アンジェロとなった兄貴と運命的な再会を果たし、俺は一度死んだはずの兄貴をバージルとして取り戻した。
バージルは、今は力を求めてはいない、といえばそういうわけでもなく、デビルハンターとして時折俺の仕事を横から掻っ攫って、そういうときばかり人間の世界に取り残されたり隠されたりしている魔具を回収して蒐集している。しかしながらケルベロスやネヴァン、イフリートなんていう当たり籤にはそうそう出会えないので、手に入れるたびその使えなさに最近は舌打ちをしている始末。そんな兄貴、普段は何をしているかといえば、なんと昼間は喫茶店夜はバーという、スラム街に限りなく近い場所にある店で働いている。一度覗きにいったら、すんごく嫌な顔をされた。その上コーヒーの一杯も奢ってくれなかった。ケチだ。
そんな兄貴に春が来た! なんだって! 俺には恋人の影も形もないどころか、身近にいる女はみんなおっかないのばかりだというのに! 世界は不公平である。

「相手、いくつなんだ? 髪の色は?」
「・・・黒い髪に、象牙のような肌をしている・・・日本人だ」
「日本人!」

日本。父、スパーダが気に入っている国だった。初めて見た着物はなんてストイックでエロい服なんだろうかと思った。まだ俺は一度も行ったことがない。話に聞く日本は侍の生きる、義に溢れる国だ。それと同時にエンツォからはマンガとアニメとゲームの国だと聞いた。様々な文化が共生するなんてフリーダムでいいじゃねえか。

「で、どんな子?」
「・・・ヤマトナデシコというやつだな」
「おおおヤマトナデシコ!」
「勉強熱心で、真面目で、子供に優しく・・・そして、芯が強い」

ジーザス。兄貴が笑った。しかも頬を薄っすら紅く染めて。悪いが正直、気持ち悪い、いや気味が悪い。何せ自分と同じ顔だ。俺は恋人が出来てもあんな顔はしない、絶対。
しかしなんという理想のタイプだ。どこで捕まえたんだ、と聞いたらなんと同じ店で働いているという。一回だけ行ったあのときには日本人の姿は見当たらなかったが、もしかして兄貴は隠していたのだろうか。ヤマトナデシコの恋人とか、いつのまにか作りやがってやらしー兄貴だ。

「もう手は出したのかよ? バージル」
「・・・・・・・・・」

目を逸らすバージル。そうかその顔は出したんだな。堅物ぶっていても兄貴は兄貴、男だったということだ。このムッツリ助平。だが少し安心。あんなに親父の力だなんだと云っていた兄貴がこうして人間の恋人に廻り会えたということは、非常に喜ばしいことである、はず。ここは弟として、そして一人の対等な男として! 祝福してやるべきだ、そうに違いない。
例え俺に恋人がいないとしても。付き合っていたと思っていた相棒には、実際にはいいように使われていただけだったのだということに気づいてしまってしょんぼりした記憶も新しいが。それ以外に女といえば拳銃やバズーカをぶっ放す奴しかいない、としても。嫉妬心なんぞ投げ捨てて、たった一人の家族の幸せを心の底から祝ってやれる、それがいい男ってもんだろ?

「いつ連れて来るんだ?」

再来週の土曜日、夜。バーでの仕事が終わったら。何故再来週かと聞けば、恋人の試験が終わるのがその週だからだそうだ。医者を目指して留学して来たという恋人。さぞかし頭のいいことだろう。正に才色兼備。これで料理が上手いとかだったら、もう・・・・・・・・・世の中って本当に不公平だよな。


そして来るXデー