バージルが連れてきたのは黒髪黒目、一目見てわかる肌理の細かい象牙の肌、俺達よりも頭一個半ほど背の低い日本人の、男。紛れもなく男。どっからどう見ても男。そりゃ確かにバージルと並べてみれば可愛らしい顔をしているかもしれないが、男だ。 「・・・・・・バージル、その、」 「紹介する。・だ。これが弟のダンテ」 「初めまして、ダンテさん」 「はは・・・・・どうも、兄貴が、世話になって・・・・」 兄貴が俺にカミングアウトした日から、恋人のことをと呼ぶもんで、まぁ普通恋人と言えば女! だからな、どんな清楚な日本人女性を連れてくるかと思えば、そうか兄貴。男かそうか男なのか。 まあ中へどうぞ、と、半日前散らかりすぎて兄貴に超絶叱られて片付けた事務所に案内する。古ぼけたソファに彼が座る。兄貴は奥に消えていった、多分コーヒーかなんかを淹れて来るんだろう。俺はどうすりゃいいのか、紹介するとはいわれたものの予想外のことすぎて何を話していいのかわからねえし、まず座るにしてもどこに。ドア正面の指定席に座るとしたら、歓迎してませんと言うようなもんだし(イヤ別に歓迎していないわけじゃない、絶対に)かといって彼の正面にも座り辛い。ああー畜生、兄貴、馬鹿野郎! 「なんだダンテ、お前」 心の声が聞こえたかと、本気で心臓が口から跳び出るかと思ったが、兄貴は別にそういう意図があったわけではなく、ドアから数歩のところで突っ立ったまんまの俺に不審者を見る目を向けた。酷い、ここ俺の事務所。 座れ、と目で促され、覚悟を決めてソファを回り込んだら、兄貴ってば俺の分のコーヒーまで淹れてくれていた。しかもちゃんとミルクと砂糖つき。兄貴と彼は何にも入れずそのままブラックで飲んでいた。なんだよそんなとこまで一緒にしなくても。と思うがバージルの淹れてくれたコーヒーは、喫茶店で働いているからなのか知らんが香りも味もいいので遠慮なくいただいておく。うまー。よし、落ち着いた。 「ええと、兄貴とは働いてる店が同じでって聞いたけど」 「はい。俺の方が先に働いてたんですけど・・・今じゃバージルさんのほうが仕事できるようになってしまって」 苦笑する彼。明らかに俺達よりも年下で、しかもアジアンは童顔に見える。しかしそうやって笑うと更に幼く見えて、ああこれは確かにかわいい。どきん、というよりも、きゅん、という感じだ。いや待て俺。彼は兄貴の恋人であって、そう、未来の俺の・・・・なんだ、そうだ家族! 家族が増えるんじゃねえか、いいことだ。 一人うんうん頷く俺を尻目に、兄貴は至極幸せそうに、頬を緩ませて彼を撫でている。やっぱり気持ち悪い。見慣れないせいだということにしておく。そして彼もまた、くすぐったそうに目を細めて、微笑んでいる。しかし髪を撫でていた兄貴の手が彼の頬を滑り、兄貴の顔が物憂げに曇る。 「、少し痩せたか。あまり無理はするな」 そして、でこちゅー。俺は今この世のものではないものを見たような気がするそうに違いない。あの兄貴が! いや兄貴も人の子、愛情表現の一つや二つ。彼は途端「なっな、な、バージルさんっ」と顔を真っ赤にしている。そういうウブな反応はいいよな。兄貴も満更じゃなさそうだ。「人前でその、き、キスするなんて」とごにょごにょ。日本人はシャイだな、挨拶のようなものだろう。鼻の下を伸ばして言う台詞じゃねえよ兄貴。 あの兄貴の「私の恋人を紹介します」宣言からこっち、今まで見たことのない兄貴の顔ばかり見ているような気がする。きっと気のせいじゃない。だがこうして、そんな兄貴の表情を引き出してくれた彼には感謝をするべきなのだろう。なんせ今の兄貴は、無表情に見えてだいぶ幸せそうだからな。双子の俺にはわかるんだ。うん、こう思える俺もまた、成長したということで。 あー、俺も、恋人欲しい。 |
世界よ! 嗚呼俺にも愛を分けてくれ!