空が澄明と蒼い。 冬の高く澄み切った空を、たおやかな陽光が煌めかせている。 地には全て呑み込むような銀白。処女雪の危うさは神々しささえ孕み、耳の痛くなるほどの静謐をそこかしこの雪影に湛えている。 骨の寒々しさよりも尚峻烈な純白の大気が肌を痺れさせた。 幸村、これが奥州の雪だ。 オレが生まれ育った白だ。 何処かへ去った佐助の置いて行った銀つばを器に盛って、政宗はひとり、白の静寂に視線を注ぐ。 息を呑む音も聞こえない。 そこには己ひとりなのだと知る。真田幸村は、死んだのだ。 目を瞑れば、瞼の裏の暗闇に輝くような笑顔があった。 政宗殿、とはしゃぐ声も、あえやかに頬を染めた息遣いも、腕の中にあったぬくもりも、全部覚えている。 でももういない。 真田幸村は死んで、政宗の腕から永久に去った。 お互いの死くらい覚悟していた。こんな時勢である。離した手が再び結ばれる保証はどこにもなかった。 それでもお前を求めたオレを、お前は惰弱だと謗るだろうか。 暗闇に囲った幸福は、それでも確かに甘く美しかったよ。 政宗はそっと瞼を開く。視界を灼くような純白に目が眩む。 そこにはもう、幸村の笑顔はない。 さよならだ、幸村。 瞼の裏の幸福は底なし沼のようで、だからもう二度と戻らない。 ただ沼の底には、お前を全部沈めておく。 幸村の全ては政宗のものだ。政宗だけの、ものだ。 お前を心から愛してた。 |
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