『お久しゅうございます。
 長らくの無沙汰、大変申し訳のうございました。真田源二郎幸村、真心よりお詫び致しまする。
 突然の音信、驚かれたことでございましょう。ましてやこのような世情でありますゆえ。
 そこもとも此度の戦のことはお聞きおよびかと存じます。
 俺は此度、豊臣方として槍を振るう心積もりでござる。
 何もお聞きくださいますな。理由は数多とござるが、俺が豊臣の武士となることだけは確かなのです。
 勝敗など、とうにわかっております。
 憐れんで下さいますな。
 覚悟ならば、お館様の槍として初めて戦場に立ったその時から出来ております。
 俺は天破絶槍真田幸村、武士でござる。
 しかし、恥を忍んで申し上げれば、この身の後先は思い切れても、残して逝くには気にかかることどもがございます。
 迷惑千万は百も承知。このような者からの頼みなど、そこもとには戸惑われるばかりでしょうが、どうかお聞き下され。
 この手紙と共に、宛名の無い手紙が送られているはず。時期が来たらば、それを猿飛佐助に渡して下され。
 直接あれに渡すことが出来れば良いのだが、佐助は俺の一番の家臣故、読みきる前に自害して果てるやもしれぬ。
 忍に殉死の習いは無くとも、佐助ならば俺の訃報と共に死ぬ。
 だからどうか、それぞれの時期に、佐助に手紙を渡して下され。佐助の命を繋いで下され。
 佐助はそれを余計なお世話と言うかも知れぬ。
 だが、これは俺の最期の願い。生き延びることで見えるものもあろう。俺には見えぬそれを、佐助に見てほしいのだ。
 どうかどうか、お願い致す』





 拝啓 戦の後





 私は言われた通り、宛名の無い手紙を渡す。
 憔悴した男はひったくるようにして手紙を受け取り、食い入るようにもうこの世にはいない人の墨跡を追う。
 「いかなきゃ」
 読み終わった佐助は、ひび割れた唇で呟いた。縋るような瞳を東に据えて、どこか悔しげに、どこか誇らしげに。
 解放されたような表情だと私は思う。妙な清々しさが口角に在った。
 「旦那の命令だ」
 嬉しそうに言って消えた奴隷が、以後私の前に現れることはなかった。
 きっと、時期が来るたび、別の誰かから宛名の無い手紙を貰っているのだろう。私はそう思うことにしている。






   一通目