設定:「夢と現のはざまに」島さん宅で連載中の花魁パロ「迷い仔のロマンス」シリーズ江戸吉原パロ!
     政宗×幸村です。
     本編は島さん宅にGO!




 幸村の落籍まで、あと幾日も無い。
 社交界といわず花柳界といわず色男の評判高い政宗に手を引かれて、幸村は廓を去るのである。姐さん方の羨望と嫉妬はさぞかし凄まじかろうと口さがない客はしたり顔でかまをかけるも、当の敵娼に「あの子の幸せを妬もうなぞと、お前様はあちきを鬼か蛇とでもお思いでありんすか」と詰られては床入りをごねられる。幸村は愛憎渦巻く花柳界に身を置きながら、不思議と姐さん方に愛せられ、憎悪を向けられることはほとんどなかった。


 さて、そんな廓の花を摘む男は、ここのところ働きづめだ。
 朝は日も差さぬうちに家を出て、夜は月が中天を過ぎるまで忙しく立ち働いている。それでも3日と開かず愛しい人のもとに通うのは流石と言うべきか。連日の仕事で疲れも溜まっているだろうに、むしろ充実して見えるのは、政宗が凄いのか幸村が凄いのか。とりあえず愛って素晴らしい。元親は人参を目前にした馬を親友の姿に重ね合わせながら、なんともぞんざいな感想を抱く。

 「おい政宗、ちょっとは休んだらどうだ? お前、飯はちゃんと食ってんのか?」
 「小十郎が握り飯を届けてくれた、問題ねぇ」
 「大ありだこの馬鹿野郎。落籍の宴で倒れちまうぞ」

 花魁、特に太夫格に近づくにつれ、落籍の宴は派手になる。
 愛しい花魁を女にするために、男は巨額の金を支払う。落籍代は言うに及ばず、揚屋中の花魁を座敷に総揚げし、飲めや歌えの大騒ぎ。花も贈れば着物も贈る、金襴緞子の帯が飛ぶように売れる。百両小判の千、二千、放り投げる名残の一昼夜の後、花魁は煌びやかな世界を去るのだ。
 貿易を手掛ける政宗はその準備のために飛びまわり、ついでに親友の元親まで巻き込んで、惜しげもなく一流品を集めている。

 「近くにうまい軍鶏鍋屋がある。せめて喰って精をつけろ」
 「Don't bother me. 今はいらねぇよ、肉なら焼き鳥を喰う」
 「ちったぁ仕事場から離れろって言ってんだよ。焼き鳥だったらお前、書類見ながら喰うだろが」
 「Shut up. 間に合うかどうかの瀬戸際なんだよ」

 元親は、政宗の手元にある書類を覗き込む。緞子、羅紗、錦糸の帯、鼈甲細工のかんざし、真珠、硝子の洋燈、仏蘭西渡りの香水数十。目も眩むばかりの品々の目録だ。言うまでもなく一流品で、名店の太夫でも喉から手が出るほど欲しがるそれらを、政宗は落籍祝いの品として揚屋中の花魁にばらまくらしい。ということは、幸村に贈られる品々はこれ以上か。今更ながら、実業家としての政宗の手腕を思い知る。

 「落籍の着物を載せた船が遅れてな」
 「阿波か?」

 阿波は言わずと知れた藍の産地だ。政宗が幸村に贈るなら、自身の好む藍の着物だろうと、男の性を鑑みた元親は豊富な知識をもととして脳裏に藍の着物を思い描いてみる。先日独逸人染色工に化学染料の試作を見せてもらったが、あれはどうもいけない。面白いと思うのと、身に纏いたい色であるかは違うのだ。
 しかし政宗はかぶりを振った。

 「藍じゃねぇ。幸村に似合うのは赤だ。それ以外にはねぇ」

 守りは虎で、意匠は炎か牡丹の花か。自ら職人まで選んだという花嫁衣装は、目の覚めるような赤をと念入りに注文した。伊万里の赤よりもなお赤く、京紅よりも鮮やかに。
 早くそれを纏った姿が見たいと政宗は頬を緩ませた。蒼の似合う彼の魂を射抜いたのは赤の似合う幸村で、政宗はそれをどこまでも尊重するつもりらしい。
 今日の最終便で届くはずなんだがと言う政宗に、元親は呆れ切ったため息を吐いた。

 「ああ、全く、お熱いこった」
 「Of course ! オレ達は、魂ごと燃えてんだよ」





 迷い仔のロマンス 吉原ver

 半年くらい前の作品です…
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