設定:政宗×幸村(♀)嫁入りしましてござる!
    幸村はお館様×謙信様(♀)の娘。結婚の挨拶は拳付きでした。




 ぴんぽーんと長閑に響いたチャイムの音に、謙信は掃除機を操る手を止めた。
 冬に入る一歩手前の秋の日を迎えるよう、風通しの良い窓を開けまくっていた謙信は、その窓の一つから玄関をちらりと覗き見る。
 見覚えのある栗毛色。胎に宿ったときから嫁ぐ日まで、ずっと心を注いできた娘の姿。
 何やら思いつめた顔がうかがえて、謙信は緊張を心に沈ませる。娘夫婦に限って、というか義理の息子になったあの男に限って。むしろ、夫に似て一本気な娘だから、何事かに気合いを入れている公算の方が大きい。いや、あるいはあるいは、もしかしたら。

 「わたくしも…ついに、おばあちゃんなのでしょうか」

 色々計算しても早すぎよう、しかしまさかまさかもしかして。
 どんどこ妄想を加速させ、謙信は指を折りながら玄関に向かう。仮にこの時期だったら産み月まであと何日。足取りが弾んでいるのはご愛嬌だ。謙信は意外と可愛いおばあちゃんになりそうである。
 果たして玄関を開けると、そこにはやはり思いつめた顔の幸村がいて、父親似の双眸に決意をみなぎらせて頭を下げた。

 「母上様っ! おいしいシチューの作り方を教えてくだされ!」

 夜な夜な水入りバケツ両手にスクワットする夫によく似た姿勢で、両手にじゃがいもやらにんじんやらが詰め込まれたスーパーの袋を提げた幸村は、尻尾毛を跳ねさせて謙信の野望を砕いたのであった。





 シチューな母娘

 「空想地底都市」ニキさんへ献上小話。
 これもだいぶ前;;
 100712 J