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 花の雨

 華と雨

 花に雨


※さらっと幸村女体化です















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 「ふらわあしゃわあ?」

 そう、繰り返した声は、柔らかなやまと言葉の連なりを宙に放る。
 意味を伴わない音たちは何やら間抜けな響きに聞こえ、梵天丸は思わずと言う風に吹き出した。馬鹿にされたと思ったのか、弁丸はふくふくとした頬を膨らませて唇を尖らせる。
 大福でも頬張っているような表情に、今度は声を上げて梵天丸は笑った。

 「ちがう、ちがう、フラワーシャワー、だ」

 少し背伸びをした年上面をした梵天丸は、弁丸よりはましではあるもののまだまだ洗練とは程遠い音の並びを繰り返す。
 先日異人の文化から学んだ未知の一欠片を披露して、得意げに顔をツンとそらす。聞きかじった知識を教えてやると、弁丸は先ほどの不機嫌もどこへやら、「それは一体何なのでござる」と興味津津問うてきた。弁丸の素直さが梵天丸の幼いプライドを盛りたてて、微笑ましい勉強会の始まりである。

 「異人の習慣らしいぜ。なんか、めでてぇことがあったときに、花びらをまくんだと」
 「棟上げでモチをまくようなものでござるか」
 「……ああ、まあ、そんなもんじゃねえの」

 モチはきなこで食べるのが一番でござる! とかなんとか、弁丸は横道に逸れはじめた。この生徒、素直なのは良いが横道に逸れるときも全速力だ。
 そんな弁丸の思考をよくよく心得てはいても、梵天丸は割り切れないというように拗ねた視線を伏せる。棟上げもめでたいことはめでたいが、花びらが撒かれるのは新築祝いではなく祝言の席なのである。
 祝言の席では、ご両人に花の雨を降らせて前途を祝すのですよと教わったとき、梵天丸は心に決めた。絶対自分が、弁丸とフラワーシャワーをするのだ。幼い決意に頬を染めて、真っ先に弁丸のところに来たと言うのに、肝心の弁丸ときたらモチに夢中になって梵天丸は続きを言えなくなってしまった。

 (やくそく、しよう)

 そう言いだすきっかけをつかみ損ねた梵天丸はむっつりと黙りこんでいたが、ふと弁丸の騒ぐ声が遠くなって顔を上げる。上げた視線の先に、弁丸の姿はなかった。

 「弁丸?」
 「こちらでござる!」

 背後から、元気の良い弁丸の声が飛んだ。
 驚いて振り返ろうとした梵天丸の視界にはらり、甘い匂いを伴った色の欠片が降ってきた。

 「ふらわあしゃわあ、とは、こうでござるか?」

 小さな両手いっぱいに、どこで調達したのか花びらを持って(ちらりと見えた床の間の生け花が、随分貧相なことになっていた)、弁丸は梵天丸の頭上にそれを散らす。梵天丸の方が背が高いから、一生懸命背伸びして両手を高く掲げ、そのせいか足元もふらつくだろうに、弁丸は大層楽しそうに呆気にとられる梵天丸に花を撒くのだった。色とりどりの花びらが、まるで春の光が零れたように梵天丸の上に落ちてくる。
 思惑外れて祝われてしまった梵天丸は、まだ少し間の抜けた声で問う。

 「……今日、オレが祝われる理由なんざあったか?」
 「あっ!」

 「祝いごと」を失念していたらしい弁丸が、あんまりにも大きく目を見開いたので、思わずこみあげてきた笑いを隠すことなく梵天丸は高く声を響かせた。花を散らしながら立ちあがり、しょんぼりした弁丸の手から残った花びらを奪い取って彼女の上に思い切り放る。ぱっ、と散った花びらはひらひらと彼女の頭上を舞い、その光景に弁丸が歓声を上げた。

 「弁丸、」
 「……はっ! な、なんでしょう?」

 花の雨に見惚れる弁丸をまっすぐ見つめる。先ほどはきっかけをつかみ損ねた、しかし今はしっかりつかんだ。
 梵天丸は深く息を吸い込んで、今度こそ、今度こそ約束を、





 花の雨


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 勝手に幼少設定すみませんorz
 特に細かいことは考えてませんが、梵と弁は一時期一緒にいたということで。


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 最初に彼女を華と言い現わしたのは、一体誰であったことだろう。

 血煙の中槍を振るう若虎は、まるでそこが天啓に導かれた場所であるかのように、いきいきとその槍を振るう。
 口元にかすかに浮ぶ、凄絶な笑み。
 自身の赤、他人の赤に埋もれて、陶酔する彼女にはどこか嫣然とした風さえ漂う。

 なるほど、華と呼ぶにふさわしい。
 幸村は華だった。

 血に塗れて咲く、 戦の華 だった。

 艶やかなその華から、しなやかに躍動するその華から視線を逸らすことができない。
 快感にも似た戦慄が背筋を駆けのぼる。熱に浮かされたまま、政宗は己が最愛の好敵手の名を叫ぶ。

 「真田、幸村ァ!」
 「伊達政宗ェ!」

 ギィィン、刃と刃を取り交わす瞬間の興奮、凶暴な眼差し、死を連れた邂逅!
 政宗の口元に、知らず笑みが浮かぶ。
 この戦場の華に、政宗は魂ごと魅せられてしまったのだった。





 華と雨


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 華と血の雨。


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 さあさあと、雨音が聞こえていた。
 濡れた夜のにおいが鼻腔に満ち、時折針のような雨が、蝋燭の光に煌めいては消えていく。
 黒く冷たい夜の中を歩き回るには、蝋燭は大層頼りないもののように思えた。
 ただでさえ、政宗の視界は常人の半分しかないのだ。

 ああ、だが、政宗の探し人は、もう半分の光さえも失っている。

 両目とも見えぬ、暗闇の住人になったというのに、こんな雨の夜に一体どこへ行ったのか。
 舌打ち交じりに歩を重ねた政宗は、ふと泥の撥ねる音をとらえ、真暗な庭に光を遣る。
 頼りない灯は大して視界を広げることも無かったが、それでも暗闇にちらりと白い背中が浮かぶ。
 頼りなく雨の向こうに消えようとするそれを認めた途端、傘も差さずに庭へ下りた。足の裏に伝わる泥の冷たさ。着物に雨が斑を描き、広がっていく。

 「What are you looking for?」
 「……まさ、むね殿」

 庭石にでも足を取られたのか、転び、肌に張り付いた白い夜着を泥で汚した幸村が、我に返ったように振り返る。
 長い睫毛に縁どられた目は薄く開かれてはいたが、それは茫洋と声のする方を彷徨うばかりで、政宗を確と捉えることはない。髪から伝う雨水が、涙のようにまろみの削げた頬を滑り落ちる。
 居所を確かめるようにふらふらと漂う手を取って抱き寄せると、その体の冷たさに鳥肌が立った。
 さあさあ。閉じ込めるような雨の音が耳にうるさい。

 「……どんなに探したって、暗闇を抜けるdoorは無いぜ」

 幸村の肩がびくりと震えた。
 帰る巣も、戦う術も無くした華に、政宗の言葉は冷たい雨のように降る。
 政宗の着物を震える指が握った。

 「殺して下され」

 雨音に消えいるかのような懇願が、吐息と一緒に政宗の耳朶を揺らす。
 せがむように着物を引く。その肩の細さに目眩を覚えた。幸村はもう長いこと、槍を握っていない。

 「政宗殿を殺すことが夢でした。殺されることが夢でした。我らの間には、その二択の未来しかなかったはず」
 「ああ、オレも、まさかこんな形の未来はimageできなかった」
 「ならば、某を殺して下され」

 幸村はもう戦えない。武田は滅び、視力さえも失った。それでも生きているなど、かつては考えもしなかった。お互いを殺すか殺されるか、未来はその二択しか考えられず、政宗を殺すことが不可能となった今、殺されることこそが道理であり平穏だろうと幸村は訴える。
 温かな雫を零す盲人を抱き締める。無力な小動物のような体温を感じながら、政宗はNo、と一声呟いた。幸村が息を呑んだ振動が触れている箇所から体中に響く。

 「何故です」
 「もう、アンタと戦えないからさ」
 「ですからそれならば」
 「そういうことじゃねぇ」

 政宗は雨から守るように幸村を抱く。けれども、檻のような雨は容赦なく二人を閉じ込め、進路も退路も断つのだった。
 限りない虚しさを込めて、政宗はぽつりと言葉を落とす。

 「アンタと殺し合えなくなったから、愛するしか道がなくなったんだ」





 花に雨


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 花=幸村。花を散らす雨。
 本当は血塗れ死にかけのゆっきに殿がフラワーシャワーな予定でしたが、突飛過ぎてまとまりませんでしたorz


 「Breathless」林さんへ、スケブお礼で献上!
 あああんな素敵なスケブにこんな鬱でごめんなさい…!!
 090509 J


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