青い空、白い雲、広い海! 日差しはまるでリゾート地のようで、真白く続く砂浜に思わずワンピースを探してしまう。リゾートには麦わら&ワンピースの美少女が付き物だ。妄想? 何を言うか、砂浜に美少女、これ世の真理というものだ。
 ああでもビキニの美女でもいいな、と自称清純派好みの慶次は思わず妖艶な小麦肌を妄想する。体型はもちろんボン・キュッ・ボンだ。白い目を向けないでほしい、男の性なのだ仕方があるまい。
 もちろん小麦肌でなくて白い肌でもばっち来いだ。サンオイルならいつだって塗ってやる。パラソルもジュースも全部持参して、羽根団扇で扇いでやってもいい。恋の奴隷とお呼びくださいお姉さま。白のウッドチェアに載った肢体、汗の玉が伝う胸に綺麗な太股、きゅっと絞られた足首に濡れた後れ毛が張り付いた首筋、

 「慶次君、何を考えているんだい。さっきと扇ぎ方が違うよ」

 ただし断じて男ではなく。
 現実逃避を企てた扇風機慶次に繊細な美声が図太い要求を突きつける。白のウッドチェアに載った肢体、汗の玉が伝う胸に綺麗な太股、きゅっと絞られた足首に濡れた後れ毛が張り付いた首筋も麗しい、言わずと知れた竹中半兵衛である。
 肌理細かな白い肌を惜しげもなくさらし、この期に及んでハイセンスすぎるマスクを着けたある意味度胸の人半兵衛は、ビーチの視線は僕のものと言わんばかりにもの憂げな流し目を投げかけた。明日にでもなればその整った顔に愉快な日焼けができると思うのだが、それは天才の頭の中でどう対処されているのだろう。

 「全く、君ときたらいつもそうだ。どうせいやらしいことでも考えていたんだろう」

 だめだよ、僕は秀吉のものだからね。
 熱さのせいで頭が沸いたか可哀想に、と友人を失いたくない慶次は好意的に解釈してやった。
 ちなみに秀吉は、先ほどから木登りに夢中である。とっかかりも無いひょろりとした木に器用に上り、まだシャンデリアのようなバナナを房ごと収穫している。ひょっとしたらこのまま野生に帰ってしまうかもしれない。

 「秀吉―! バナナもいいけど、こちらへおいでよ。一緒にトロピカルジュースを飲もう」
 「おお、それもよいな」
 「そういうわけだよ。慶次君、早く作ってきたまえ」
 「え、俺が?!」
 「君以外に誰がいるって言うんだい」

 全く、と半兵衛は呆れたように首を振る。その仕草はとても艶やかだ。輝いていると言っていい。けれどもそれに反比例して慶次は悲しくなっていく。
 友達の定義について悩みながらキッチンへ向かう慶次を、「ああ、ちょっと待って」引き留めた半兵衛に何らかのフォローを期待した慶次だが、半兵衛はそっと小さな瓶を握らせる。

 「いいかい慶次君。グラスには絶対にバナナをトッピングするんだ。その時、バナナにこれをふりかけるのを忘れないでくれ」
 「えーっとぉ…念のために聞くけど、これ、何?」
 「僕の口から言わせようというのかい?」

 そんなもんを友達に盛るな。慶次はそう叫びたかったが、やたらキラキラした半兵衛に怒鳴る気力も失せていく。むしろ、根こそぎ吸い取られていく。
 キラキラした半兵衛は見た目だけは麗しく微笑すると、もはや慶次に用は無いとばかりに秀吉めがけて駆けていった。
 プールサイドを走るなという常識を天才は削除したらしい。天才って紙一重の向こう側だ。慶次はしみじみそう思う。

 だって案外逞しい男なのに、半兵衛の白肌を包むのはビキニだ。
 紫ラメのきらきらしい、スタイルを見せつけるような、ビキニだ。
 太陽光を反射したラメが目に沁みる。

 「友達って…なんなんだろうな……」





 慶次が友情について涙していた頃、砂浜では一つに芸術が完成しつつあった。

 「ぶぷふ…っ! す、素敵だよおねーさん…っ」
 「、き、器用だなアンタよぉ…!」
 「てめぇらの行く先は…地獄じゃすまねえ…!」

 修羅のように地を這う政宗の呪怨に笑い交じりの悲鳴を上げながら、は最後の砂を盛る。完成だ。元親がエルボーを食らったカエルのような声で吹き出した。
 砂浜に創り出されたのは、見事なセクシーボディだった。ボン・キュッ・ボンは言うに及ばず、艶っぽい足組み、セクシービキニの皺まで、やたらリアルに描き出された芸術は、砂から生えているような政宗の首に繋がっていた。砂に埋まった政宗は動くことができない。
 ちなみに政宗の動きを封じたのは本多忠勝の功績だ。家康と親しい元親が、に頼まれて家康に「忠勝に頼んで、政宗の動きを封じてくれ」と頼んだのである。まさに伝言ゲームだ。
 忠実にその望みを叶えた忠勝は、自身の行動が招いた結果に良心の呵責を覚えて空の彼方へと飛んでいった。彼が飛んだ軌跡は飛行機雲となり、打ちよせる波の音も相まって実に爽やかだ。家康の「ただかぁーつ!!」という悲鳴が響いてはいたけれど。

 「兄貴ィー! 日傘、日傘忘れてますぜ!」
 「おう、すまねぇな。心配すんな、日焼け止めはSPF50+をしっかり塗ってあるからよ」

 砂浜の向こうから駆けつけてきた舎弟たちからフリル付きキティちゃんパラソルを受け取って、元親はにかっと爽やかに笑う。まさに夏男と言うべきだろう。そんな彼の水着は濃紫、ピッピのワンポイント付きである。

 「フン。愚民めが」
 「あ゛? なんだと元就」

 ばさっとパラソルを広げた元親に、元就は軽蔑しきった視線を寄越す。
 元就はカカシのごとく両腕を広げていた。肋骨が浮き出ていないのが不思議なくらいの生っ白い体である。よくよく見れば程よい筋肉がついているのだが、白すぎるほど白い体なだけに逆に気持ち悪い。

 「日輪の加護を遮ろうとは……脳のない輩よ」
 「てめぇこそ、お肌を過信してんじゃねぇぞ。強すぎる日差しは繊細なお肌には毒だ!」
 「日輪を毒と言うか!」

 日光戦争が巻き起こるその足元で、放置されたグラマラスもとい政宗は、いつのまにやら消えたの行方を探す。乙女が日焼けしようが夏野菜が光合成しようがどうでもいい。
 首だけ無茶な角度に動かし続けた政宗は、胸の谷間から見えた水面に小さな道化師を発見する。

 「喰らえ! バナナミサイール!」
 「フルーティー攻撃なんぞ効くかランマル! てぇーい、attacco di delfino!(イルカ攻撃!)」

 バナナボートに乗った蘭丸とイルカの浮き輪に跨ったが熾烈な戦いを繰り広げている。きゃんきゃん甲高い歓声と共に舞う水飛沫。その近くで微笑ましく見守っているのは織田夫婦ではなく白い浮き輪の海女さんルック謙信で、当たり前というか近くにいたかすがは黒ビキニだった。ちなみに織田夫婦は近くのパラソルでお酌中だ。余計なことだがその右斜め後ろではイチゴかき氷を手にした光秀が何やら悦に入っており(「ふふ…青い空…白い雲…そして真紅…」)、政宗は全力で見ないふりをする。ちらりと見えた濃姫は、ビキニの上にパーカーを羽織っていた。
 ビキニ率高ぇなオイ、とか年頃青少年としては思わなくも無いのだが、いかんせん頭痛を誘うビキニの割合が高すぎる。
 その筆頭はカオスな空間を繰り広げている半兵衛と、

 「あ、おーいマサムネー!」

 全開の笑顔で手を振ったの濡れた細い手、陽光にキラキラと輝くのは水滴で、波の間に浮き沈みする体は元気一杯のマリンボーダービキニ。
 思わず手を上げかけて砂の重みに邪魔される。鋭く舌打ちしている間には謙信たちと会話を始めてしまい、ためらいなく外された視線にますます苛立ちを募らせる。くそ、こんな砂!
 浜に打ち上げられた魚のようにのたうつ政宗だったが、ふとその上に影が差す。
 見上げた先には、真白に輝く太陽とそれ以上に輝く頭頂部があった。いや間違えた、頭全体が後光のように光っていた。

 「愉快なことになっておるな、独眼竜」
 「Shit! うるせぇよ」

 スイカを両肩に担いだ信玄に、このおっさんがいるってことはと頭を巡らせると案の条、

 「殿―!」
 「ちょっと旦那走らない! クーラーボックス振り回さない! 海に入るのは準備体操してから!」
 「わあ、ユキムラ、サスケ、Ciao―!」
 「おや、とらのわかごですか。ということはかいのとらも」
 「来るな、見るな! 謙信様のお顔を見ることも許さないッ!」

 この格好を見られなかったことをよしとすべきか、突進しそうな幸村を大声を上げてでも止めるか、政宗は一瞬海より深い悩みに囚われる。その瞬間見計らったかのように佐助がこちらを向き、ひどく可哀想なものを見る目をされた。口元はこらえかねたように笑っていたが。
 猿のバーベキューをしてやると心に決めた政宗の射殺すような視線の先で、佐助は手早くシートを引いてパラソルを広げる。言わずと知れたアンパン柄である。
 ポケモンではないのか珍しいと思ったが、実はシートはポケモン柄だった。ちなみに海賊たちが守る元親フィールドはキティで埋め尽くされている。肝心の元親は何がどうもつれたのか元就と水辺の追いかけっこをしているが。カオスだ。

 「ラジオ体操第一―はいいっちに、さんし」
 「佐助はやらんのか?」
 「俺様留守番。楽しんでおいでー」

 ちゃっかり休む気満々らしい佐助の掛け声に合わせて、幸村はぴょんぴょんとび跳ね深呼吸をする。が、

 「ユキムラ、早く遊ぼうぜー」
 「おおど、のををををををぼふぁ?!」
 「ギャ―――ッ?! 熱中症がユキムラ血がスイカ色―――?!」

 海から走り出てきたマリンボーダービキニなを認めるや、幸村の鼻から噴出した血が見事な放物線を描く。ちなみに背景は入道雲。爽やかと言ってよいのか非常に悩む。

 「あー、旦那ってば……ていうかの旦那、やたら似合ってるねーその水着」
 「Grazie! ハンベーと一緒に選んだんだよ、可愛いでしょ」
 「うんまあ可愛いっちゃ可愛いけどね」

 それが原因で旦那は鼻血だよ、佐助は溜息と共に愚痴る。
 水を浴びたら性別変化という漫画も真っ青な特殊体質持ちのが女物を着るのはわかるが、幸村には少々刺激が強い。もちろん男物を着たらそれはそれで問題だが。

 (ていうか旦那、Aカップでこれとは初心だねぇ。……ん?)

 「あれ、の旦那、ちょっと胸成長した?」
 「え?! そうかなー?」

 相手がであるのをいいことに、佐助はうっかりセクハラ発言をしてしまう。はしげしげと自分の胸を眺め、それから困ったように政宗を、

 「………独眼竜よ……」
 「N,NO!! 俺まだ手ェ出してねぇよ、出そうとしたらアイツ逃げ、」

 そこまで叫んで政宗は固まった。何を言ってんだ俺は?! 手も何もアイツそもそも男で、ああでも今は女かややこしい!
 混乱の極地で茹であがる政宗に何を思ったのか、信玄は微笑ましく笑う。
 一方は、佐助の生暖かい視線を避けるように回復した幸村の手を取った。

 「は、早く遊ぼうユキムラ! あれだえーっと、び、ビーチバレーしようぜ!」
 「ふぁひ! しゃすけ、ボールをくれ!」
 「あー、はいどうぞ。頑張ってね」
 「うむ!」

 元気のいい返事と共にぎゃーぎゃー離れていった二人に佐助が息を吐く。
 若人は元気がいいねえなんてことを考えていると、背後に凄まじい怨念の塊が立った。

 「………?!」

 なんだ。船幽霊か。貞子か。仄暗い水の底からか。
 総毛だった佐助の耳朶を閻魔大王の声が叩く。

 「蒸し焼きと照り焼きと残酷焼きと、どれがいい猿……!」
 「ど、独眼竜の旦那ァ?! 向こうで女の子になってたんじゃないの?!」
 「Shut up! 焦げろ!」

 迸った電流を半泣きになりながら紙一重で避ける。ちらりと見えた砂浜は、グラマラス美女が土くれと化していた。
 近くで信玄が大笑しているのを見て佐助は悲鳴をあげたくなる。笑ってないで助けてよ大将!

 「余計なこと言いやがって、じっくり男の胸なんぞ見やがって!」
 「ご、ごめんって! でも今は男じゃなくて女だよ、それは旦那が一番知ってんじゃない?!」
 「問答無用だ!」

 猛然と八つ当たりしてくる政宗に佐助は心の中で思う。男の嫉妬は醜いぜ、旦那。

 「jealousyじゃねぇ!」
 「え、言っちゃってた?!」
 「これ見よがしに呟いといてとぼけんじゃねぇ!」
 「マサムネー!」

 ぴた、と政宗の攻撃が止まる。ありがとう! 神様仏様様だ。佐助は心の中でを拝み倒す。
 ビーチバレーを抱えたは手を振って叫んだ。

 「こっち来いよ、ビーチバレー楽しいぜー!」
 「チッ…仕方ねぇな」

 説得力無ぇよ。うんざりした佐助には目もくれず、花を飛ばしながら政宗が去っていく。般若から一気にその変わり身とは、いっそ見事なものである。
 一方、ビーチバレーには初期メンバーのと幸村以外に、上杉主従や織田一家、浅井一家、いつきなども加わっていた。試合中断中も光秀と蘭丸が壮絶なスパイクの押収をしている。熱気あふれる応援団は浅井家家臣団と、いわずとしれたいつき親衛隊である。
 ちなみに瀬戸内組はここにはいない。再びどんな二転三転があったのか、元親は今アヒル型の浮き輪でバタ足をする元就に構うのに忙しい。泳ぎでも教えようと言うのだろうか。
 ついでに言えば、あえて視界から抹消している一角では、半兵衛と秀吉がトロピカルジュースを飲んでいた。一つのグラスに二つのストロー、ご丁寧なことにハート型。そばで羽団扇を扇いでいる慶次はすでに目が虚ろだ。

 「マサムネ、早く来いよ」
 「うるせぇな、今行ってやるよ」

 夏はまだまだ続く。





 ビーチにて、彼らの場合

 とりあえずここまで
 尻切れですいません、Jにはまだ多人数書けるだけの力量が…!
 やりとり全部文章化できなかった…無念…っ
 茶会参加ありがとうございました!
 参加者様に限りフリーです(需要はあるのか)
 あ、でも直リンはやめて下さい
 080730 J