設定:現代で、多分伊達家フローリング。政宗×幸村(♀)
 苦手な方は全力回避お願いします!



 空気が揺れた気がして、幸村は「簡単和菓子の作り方」と題された薄い本から顔をあげた。
 薄色した午後の中に、見慣れたたくましい腕が中途半端な位置で停止している。その腕をたどると、いたずらが見つかった子供のような表情が載っていた。
 政宗どの? そう問おうとした幸村の頬に、長い指が縋るように伸ばされて、けれど触れることはなく引かれていく。
 あんたはきれいだな、そう諦めるように呟いた。政宗は笑った。温かいものを見るような、どうあがいたって届かない憧憬を浮かべる様に似ている。

 幸村はこの笑みを知っていた。それは時たま、佐助が浮かべるものだった。
 佐助がその微笑を浮かべる理由も、政宗が同じように微笑む理由も、幸村には到底想像することさえできなかったけれども、ああ、なんといやな。ただ、瞬間的にそう思った。
 政宗の指が、己に触れる前に下ろされていく。

 政宗どの。

 呼ばわった名前の先を口に乗せることはできなかった。触ってはくれないのですか、なんて、そんな破廉恥なこと幸村に言えようはずもない。
 けれども思ってしまったことは事実であり、彼女を突き動かしたのもまさにその感情だった。

 幸村が伸ばした手は、ぱしりと音を立てて政宗の手首をつかんだ。
 そのとき政宗はソファに座っていて、幸村はソファにほど近い床に正座していたのだが、幸村を見下ろしているはずの政宗の独眼は、まるで幸村の腰にも届かない子供のそれに見えた。
 やめてくだされ。悔しさにも、悲しさにも似た感情が湧き出す。
 どうかそんな目で見ないでほしい。幸村の心を満たしたのは、政宗その人ではないか。それなのに、そんな距離を孕んだ目を、どうか。
 幸村は何かに誘われるように膝を立てた。独眼と、双眸の距離が縮まっていく。

 ゆきむら。

 声帯を揺らさない四文字が紡がれて、それがもたらす圧倒的な愛おしさに何もかもが満ち足りていく心地がした。
 唇に、柔らかな熱が触れる。
 白い喉をそらし、幸村は愛しい男の額に唇を寄せた。

 政宗が息を呑んだ音を聞く。
 しかしそれに続く言葉はなく、時間はあくまでも柔らかだった。陽光のような沈黙を、壁掛け時計がかち、こち、と静かに切り取っていく。床に映るカーテンの影を揺らす風さえも、二人に遠慮するように凪いでいた。
 控えめな時計が囁いたのはほんの数秒だったが、何分にも思える沈黙のあと、幸村はそっと唇を離した。
 閉じていた瞼を開くと、天井の模様が網膜に眩しかった。
 幸村は数度瞬きをくりかえしたが、視界が安定を取り戻す前に、聴覚に新たな刺激が飛び込んだ。

 政宗どの?

 開ききらない瞼のまま聞き返そうとする、その瞬間を狙い澄ましたかのように、力強く抱き寄せられた。

 政宗どの!

 打って変って制止の響きとなった言葉を押しのけるように、首筋にいっそ熱くさえある感触が触れる。
 っ、覚えのある痛覚。瞬く間に頬が紅潮する。

 なあ、幸村、アンタ最高だぜ。

 吐息交じりの囁きがうなじを這った。それだけで、頭でも殴ってやろうかと握りしめていた拳から力が抜ける。
 頬を赤く染めた幸村は唇を引き結ぶ。今度は唇を狙っているのか、政宗がいたずらっ子のような顔をあげた。そうはいきませぬ。

 幸村は、きっ、と政宗を一睨みすると、自分から彼の方へと体を傾けた。ちゅ。思いがけず上がった音に幸村の思考は真っ白になる。
 慌てて体をひくと、驚いたような政宗が目に入った。
 あまりのことに穴にでも入ってしまいたい。幸村は耳まで赤くなり、完全にうつむいてしまった。

 途方にくれて床の木目を凝視する幸村には見えなかったが、政宗は体温を感じた一点に指を近づける。
 あと数センチの差で、唇ではない。
 そこに幸村の真髄を見た気がして、彼の肩は次第にくつくつと震えはじめた。

  Great!Great!まいったぜ。大笑する政宗に、幸村は縮こまるばかりである。
 もう逃げてしまいたいと、常の幸村なら思いもしないことを考えはじめたとき、す、と目の前に大きな手が映り込んだ。

 顔をあげてくれ、kitty.

 声に陰気な影はない。
 幸村は促されるまま従いかけたが、どんな顔をすればいいかわからなくて結局下を向いたままに留まる。
 政宗の困ったような気配が伝わってきたが、自分でもよくわからないのだから仕方がない。
 手はしばらく無沙汰に揺れていて、やがて触れることなく引き上げられた。幸村はそれに一抹の寂寥を覚える。結局何も変わらないのか。

 しかし、その悲しみは杞憂だった。ぐい、と強引に腕が引かれ、驚きに上がった視線が政宗のそれとかち合う。
 全く、何て顔してやがる。政宗は呆れたように、しかしどこか楽しそうに言い、何の躊躇いもなく幸村の頬に手を添わせた。
 政宗どの。どんな意味を持たせたらいいのかわからない呆けた呟きに、政宗はいつもの自信に溢れた笑みで応えると、今度こそ幸村の唇に己のそれを重ねたのだった。

 自重? そんなものは無い(一度刺されればいいよ
 ニキさん宅のチャットにお邪魔し、やらかしました。お目汚しすみません…!
 皆様の萌爆発な会話に箍が吹っ飛びました。
 だってちゅー話なんてテンションあがらないはずがない。
 しかし…新境地を拓いた気分です。ダテサナフロンティア!!
 081211 J