西日が沈み始めていた。
冬の夕時は短く、暗くなった空と赤さの残る空が二つ、頭上にある。赤から黒へと変わるその瞬間が、どうしてだか政宗は好きだった。



  《REASON―Winter*Day―》



家へと続く道を、と政宗は歩いていた。吐き出す息は白く、空気の冷たさを意識させる。
今日は、12月25日。所謂「クリスマス」なわけで、政宗の家で共に過ごすことになった。腕には自信のある彼が手料理を振舞うということで、はそれを楽しみにしていた。
 「政宗」
 「Ah? 何だ」
 「政宗の家でケーキの仕上げしたいからさ、台所借りてもいいよな?」
 「昨日からそのつもりじゃなかったのかよ。冷蔵庫は借りるくせに、そっちは気にするのか」
政宗がクツクツと喉で笑う。それを見て、どことなく馬鹿にされた気がした。
 「食べたくないなら別にいいぜ! 俺、一人で食べるし」
彼よりも一歩先に踊り出る。振り向いて言い放った、あんなのはただの強がりだけど。
 「Wait! そうは言ってねぇだろ!」
 「あはは、政宗面白い! 日本人なのにみんな、クリスマス好きだよな!」
一度空を見上げて、前を見て歩き出す。「クリスマス」なんていうのは、所詮キリスト教の行事でしかないのだ。
「あなたは身篭って、男の子を産むでしょう。その子を“イエス”と名付けなさい」――――天の御使いから受胎告知を受けた乙女・マリア。そんな彼女の許婚であったヨゼフはそれを知り、彼女が恥をかかぬよう、静かに別れることを決意する。しかし夢の中で、御使いに「受け入れなさい」と言われ、その通りにした。そんな時、皇帝アウグストゥスから全領土の民に、住民登録をするよう勅令が出る。ヨセフはダビデの家の血筋であったので、がリラヤの町・ナザレからユダヤのベツレヘムという町へ上がっていった。ところが、ユダヤにいるうちにマリアは月が満ち、初めての子を産んだ。その場所は、馬屋であった。宿には部屋がなかった為である。その子を神の仰せになった通り、イエスと名付け、布にくるんで飼葉桶に寝かせた……。

 「イエス様の聖誕祭なのに。まあ、俺もキリスト教徒じゃないけど」
 「随分と、詳しいんだな」
 「……知らないよりは、知ってた方がいいだろ?」
はは、と笑って見せた俺の唇に、柔らかな熱が触れた。それも一瞬のことで、何かと思ったがさっきよりも近付いた政宗に、すぐさま答えが出てしまった。
 「道でそんなことするなよ」
睨むようにそう言っても、彼には通用しない。口の端を吊り上げて笑う政宗に、
 「聖なる夜に、……それも神の生誕の日に、禁忌を犯すのは嫌なんだけどなぁ」
 「何を今更。お前は、キリスト教徒じゃないんだろ?」
 「それもそうか」
政宗がス、と左手を差し出す。何事かと顔を見て、ああ、と納得する。自らの右手をその上に乗せ、ぎゅ、と握った。そこから伝わる熱が心地良い。寒さに震えて、また空を見上げる――――星が、輝いていた。しかし、それ以外にも輝くものがある。
 「雪だ……!」
白く光を反射しながら煌き、重力に従ってはらりはらりと舞い落ちる。
 「White Christmas、か。通りで寒いわけだ。、さっさと帰るぞ」
 「えー、折角の、それも久しぶりの雪なのに!?」
 「家から見ればいいだろ」
 「……はーい」
尤もな意見を言われてしまい、仕方なく返事をする。握り直された手が、熱かった。

***

寝室のベッドに押し倒される。ふかふかとしたそこは、俺と政宗、二人分の体重さえも難なく支える。そして息も奪うほどのキスをされた、いつもより余裕無さげな口付け。
 「何お前、酔ってんの?」
 「少しだけ、な」
 「ばーか。俺は雪、見たいんだけど」
 「……後にしてくれ」
 「止んじゃうじゃんか」 
笑いあって、もう一度キスをした。

 「メリークリスマス、政宗」
 「メリークリスマス、


(お互いに言い合えればいいな、)(メリークリスマス!)




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 去年のクリスマスに、「bugiado」リツさんから頂きました。
 去年ってお前…orz 出し惜しみもほどほどにしろと。
 あああそれにしてもかわいーわぁ…! 拙宅に足りないもの:若さ・可愛さ・かっこよさの3さをきっちり押さえてますね!
 リツさん、本当にありがとうございました!
 091130 J