――――真夏。
 ひとり、炎天下学校の屋上に設置されたプールの縁に座っている。
 いつもは足元まである学生ズボンも、膝ほどの高さまで捲ってある。
 彼が足を揺らすと、ちゃぷん、と水音が響いた。

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 何かを探すかのように動く政宗。さきほどから教室の中を行ったり来たりしている。
 とうとう不審に思って声をかけた。

 「政宗、何探してんだ?」
 「………、」
 「は? 聞こえねぇよ」
 「……、だ」

 この男は、彼を探して動き回っていたというのか。
 常ならば、そんなの気にもしないくせに。彼がいない時は、俺が政宗といれるのに。
 しかし、この男はバカではないだろうか。馬鹿ではなく、バカ。
 生活面において、非常に頭が足りないのではないか。

 「政宗、の居場所、教えてやろうか?」
 「知ってんのかよ!」
 「だってあいつ、思いっきり宣言してきたし。どうする? 俺の情報は高いよ?」

 そう言って、口の端を吊り上げる。ああ、愉しい。

 「てめっ、さっさと教えやがれ!」
 「ははっ! じゃあさ、」

 ……キス、してよ。
 言いそうになって、ハッとなって口を噤む。言える筈がない、そんなこと。
 政宗が大事に思ってるのは、なんだ。けして、俺ではなく。

 「……睦月?」

 黙り込んだ俺を不審に思ったのか、政宗が声を掛けてくる。
 ああ、今日の中で、初めて名前を呼んでくれたね。
 俺の名前を呼ぶようになった時は、素面で堂々と言ったくせに。
 の名前の時には、随分恥ずかしそうだった。名前を呼ばれて、幸せそうに笑ったも、それを見てどこか雰囲気の和らいだ政宗も、

 「………大嫌いだ」
 「Ah? どうしたんだよ、お前」
 「何でもねぇよ。なら、東棟の屋上だよ」
 「……」
 「早く、お姫様を迎えに行ってやれよ。今度、アイス奢れよ。情報料」
 「……、分かった。Thanks、睦月」

 どこか納得のいかないような顔をしながら、そう言って走り出した政宗の背を見送って、俯いた。

 「大嫌いだ」

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 屋上の扉を開け放つ。
 その音に驚いたのか、プールに足をつけていたが勢いよく上半身だけ振り向いた。

 「なんだ、マサムネか」
 「お前、なんでこんなところにいんだよ……っ」

 走ってきたのか、頬は軽く上気して朱く、息も弾んでいる。
 しかしその表情は、ずっと求めていた玩具を与えられた子供のように、薄い安堵に満ちていた。

 「、だって、暑いから」
 「……Summer、だから、な」

 まだ苦しいのか、話す間にもところどころで呼吸が入る。
 そこまでして、自分を探してくれたのか、と。そう思うとなんだか照れくさいような気持ちになって、俯いてしまった。

 「Ah? どうし……」

 そう問おうとした刹那、髪の隙間から見えた彼の耳と、頬が非常に朱いことから、こちらまで恥ずかしいような気持ちになって、思わず赤面してしまった。

 「あ、のさ、マサムネも、アイス、食べる?」
 「え、あ、……貰う」
 「じ、じゃあさ、目、瞑って」
 「……?」
 「いいからっ」

 少しの不安を滲ませつつ、政宗が目を閉じる。そうするとその顔が、なんだか余計に整って見えて、微妙に腹が立つ。

 「あーん、ってして」
 「What!?」
 「いいから!」

 政宗が薄く開いた唇に、取り出した棒アイスを突っ込む。

 「E delizioso?」
 「Yes, my princess.」
 「……Principessaじゃないんだけど」

 不服そうに頬を膨らませるは、見目も相まって、本当に子供のように見えた。
 でも、その顔もすぐに笑顔に戻る。風に吹かれて、幸せそうに笑って。
 笑うのはクラウンだから、といつかのがそう言った。それでも、今笑っているのは、そこでお前が朱くなったのは、風に吹かれたお前は、本物だろう?
 俺は自分でも知らないうちに、こいつに随分救われている気がする。
 こいつの、笑顔に。大丈夫だと、そう言って笑った彼に。

 「ありがと、な」
 「え? マサムネ、何か言った?」
 「……別に」

 太陽が反射して輝くプールの水。
 乱反射する光の先は、お前なのか、俺なのか。




 夏色乱反射




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 リツさんから頂きました! ほろにが&甘酸っぱいんだぜ…! ふおぉ…!
 や、もうこいつらどうしてくれようと! あああかわいいかわいいかわいい!
 確実に私が書くよりかわいいです…! 学バサ万歳…!
 リツさん宅の睦月君の切なさが個人的にすごくツボです。
 政宗この幸せ者め…!
 リツさんありがとうございました!
 
 080820 J