何かもうこいつならなんでもアリのような気がしていたが、そうかやっぱりなんでもアリかと政宗は呆れ半分で呟いた。

 (未成年飲酒禁止法はどこへいった)

 そう思わずにはいられない光景である。
 狭苦しいの部屋の台所に置かれた、場違いなガラス戸の棚。そこにはウォッカ、テキーラ、ブランデー、ジンといった定番ウィスキーからキルシュやラムといった果実酒まで、実に多種多様なアルコールが栓の開いた状態で大切に保存されている。
 どう見ても10代のが一体どうやって手に入れたというのか、頭を掠めた疑問をああもうその辺はだからと無理矢理片付ける。
 言っては何だが政宗だって同類だ。酒の味を覚えたのは高校に入ってからだが(それも問題だ)、身分証を提示しなくても酒を買える店くらい熟知している。
 自分のことは棚に上げている政宗に、別の戸棚を漁っていたが抗議する。聡い彼は政宗の言いたいことを正確に理解したらしい、その第六感を別のところで発揮しろと思うのは間違いではあるまい。

 「別にストレートで飲む用じゃないよ、料理用にも使ってんだから!」
 「言い訳はやめとけ。別に今更驚きゃしねぇよ」

 第一の料理に使うなんて、そんなもったいない用途が許されるものか。
 あんな異次元の生き物召喚に使われては、それこそ酒の意味がない。

 政宗が全く信じようとしないので、は盛大に膨れた。

 「嘘じゃねえよ! っあ〜〜もう、折角とっておきのコーヒー淹れてやろうと思ったのにやる気失せた! もう知るか!」
 「あ゛?! No kidding,(ふざけんなよ、)コーヒー淹れてやるからお茶受け買えってせっついたのは誰だ?! しかも高いやつ選びやがって。コーヒー淹れないんならこのケーキはやらねえぞ?!」
 「俺は悪くないんだからケーキは食う! マサムネが悪いんだよ、メイデイだ!」
 「Ah-? 救難信号出がどうかしたか? それ言うなら名誉毀損だぜ。日本語は正しく使え」
 「お前が言うか、外国かぶれ!」
 「なんだと?!」

 ぐぐぐっと睨みあう。デコがくっつきそうなくらい睨みあう。慶次がいたら見つめ合っちゃってーとかなんとか言いだしそうな至近距離だ。
 先制したのはだった。
 ハッと鼻で笑い、政宗を見下すように腕を組む。実際のところ岩より強固な身長差のせいで見上げなければならないのだが。

 「あーあーそうか、マサムネはあくまで『かぶれ』だもんな。コーヒーに酒入れるなんて思いつかないもんな」
 「What…?!」

 政宗は面食らった。確かにそんなこと知らない、ていうかそんなこと本当にするのか…?!
 とてもじゃないがうまい組み合わせとは思えなかった。しかしに無知をさらけだすのはなんかこう言い表しようのない強大な屈辱感というか抵抗がある。
 しかし、言葉を噛み殺した政宗の表情だけでは全てを悟ってしまっていた。くそ、こんなことばっかり鋭い。
 ハハンと機嫌を良くしたは、豆とミルを取り出しながら言った。

 「じゃあ、なーんにも知らないマサムネに俺が教えてあげようねー」
 「チッ、調子に乗りやがって」

 しかし興味があることはあったし、のコーヒーという当初の目的も達成できそうなので、ここは大人しくする。何故なら俺はオトナの男伊達政宗。
 「カフェ・シュナップスにしよっかなー」とか言いながらは薄めのコーヒーを作り、平然と棚から果実酒を……っておいおいおいマジか。

 「ん、できたよ」
 「Are you serious?!(本気か?!) この酒、度数40%超えてんじゃねーか!」
 「それがどうかした?」
 「どうかって……あーくそ」

 政宗はぶつぶつ言いながら差し出されたカップを受け取る。コーヒーの香ばしい匂いとやっぱりばっちりしっかり酒の匂いがする。
 マジか。マジで飲むのか。
 政宗の躊躇を感じ取ったのか、が「飲むの? 飲まないの? せっかく作ったのに飲まないの?」と面白半分でにやにや言い立てる。

 (ええい、覚悟は決めた!)

 ぐい、と一気に呷った。まるでビールを飲むかのような、天晴れな一気飲みだ。
 飲み干した政宗は、唇を離したカップを意外な心持で見つめた。

 「意外といけるな」
 「だろー」

 は嬉しそうに笑って、自身のカップにコーヒーを注ぎ始めた。この辺りで嫌な予感がしてきたのだが、の手が果実酒にのびた時それは確信に変わった。
 急いでその手から果実酒の瓶を奪う。

 「Stooop!! それはやめろ!」
 「あっ、なんでさ?! 返せ!」

 返してたまるか、と政宗は思う。
 先日政宗は、の意外な弱点を発見した。
 ストレートならビールから焼酎までなんでもござれ、ウイスキー? そんなもん水だ水、ウォッカのウォッカ割でもぱかぱか空けるよーな超ド級のウワバミのくせに、はカクテルには滅法弱かった。
 政宗には、何故高度数の酒が飲めてほぼジュースのカクテルが飲めないのか理解できない。

 しかも、のカクテル酔いはまあなんというか凄かった。
 うまく隠しているが、普段警戒心の塊のようなが、まるで子供のように笑う甘える眠る。
 これでもかというほど無防備な姿を見せられて、平気な人間がいようか。いやいない。
 あんな心臓に悪い体験を二度としてたまるか、いやでもの本音に触れられる数少ないチャンスで実はちょっと嬉しかっ、

 (Nonononono違うぞ何考えてるんだ俺は?!)

 ぐるぐるし始めた政宗の隙をついて、が果実酒の瓶を取り返す。

 「あっ、テメェ!」
 「返してもらったぜ!」

 言いながらはドボンと果実酒を注ぐ。勢いがよすぎてシンクにコーヒーの飛沫が飛んだ。
 はすぐさま、明らかに多すぎる果実酒を入れたカフェ・シュナップスを飲み干しにかかる。もはや味わいもなにもあったものではない。
 それは政宗が奪うかもしれないと思っているからなのだが、実際のところ政宗は取り上げるために上げた手を止めてしまっていた。それというのも、

 (あ、飲んだ……またああなるのか……?)

 が酔うのを仄かに楽しみにしていたりして。
 一息に飲み干したは、自身を凝視する政宗に気づいて怪訝な顔をした。

 「何だよ。俺の顔がどうかした?」
 「………酔わねえのか?」
 「あ? これくらいで?」
 「ハッ?!」

 我に返った。
 返ったら先ほどまでの思考に後悔の津波が襲ってくる、何だどうして何で酔ったらいいとかちょっと楽しみにしてたりとかいやまさかそんなことあるはずが、

 「認メタクナーイ!!」
 「うわわおおおおお?! まままマサムネがコーヒーに酔ったぁあああ?!」

 唐突に叫んで壁に頭を乱打し始めた政宗に、は悲鳴をあげて距離をとる。
 熱くて熱くてたまらなかった。頬が真っ赤に燃えている。
 それはきっとコーヒーのせいだと、政宗は責任転嫁した。





 Kaffee Schnaps

 Schnaps=火の酒だそうです。ドイツ語―
 主人公が飲めないのはカクテルのみ
 080513 J

 なんかコーヒーに酒入れて飲むのマイナーらしいです。
 偉そうに書いちゃってすみませんorz
 081110 J