※ニキさん宅「イヅハナ」にて掲載されている「エンドロールその後に」三次創作。
  伊達×真田♀、長男政幸、長女さち。
  +拙宅三次創作キャラで浅井家長男輝政くん。まさとてるは同い年。



 おいこらまさ、動くんじゃねえ、と、最近隙あらば動き回っている長男を叱る声は珍しくも無い。しかし不思議だったのは、その声が定番の風呂や台所ではなく居間から聞こえてくることだ。政宗は子供たちに常日頃から大人しくしろとは躾けておらず、むしろ大いに遊び回れと手綱を離しっぱなしである。もっとも公共の場はその限りではなかったが、居間でその言葉は聞いたことがない。
 怒られたまさはごめんなさぁいと明るい声音で答え、それでもくすくす笑っているのが聞こえてくる。ねえおとーさんどう? もうできた? だから動くなって。政宗の声も、微笑を想像できるような柔らかさだ。
 不思議に思った幸村が、髪を結っていたさちを連れて出向いてみると、居間の柱にぺったり背中をくっつけてそわそわしているまさがいる。隣にかがんだ政宗は、定規とボールペンを手にこら動くなとまだ長男を叱っていた。まさは政宗の手元が気になるらしく、注意されてもすぐに視線を父の手元に寄せて、結果顎が上がってしまう始末だった。
 「政宗殿、一体何を…?」
 「OK、もう動いていいぞまさ!」
 きゃあっと歓声をあげてまさが柱を振り返る。幸村は正面に回り、改めて事の顛末を理解した。
 柱には目立たない色のメンディングテープが貼られ、丁度まさの頭の辺りに、細かな字で数字が書かれている。
 「115.7センチ」
 「えー!」
 ああ身長か、そういえば昔自分も測ってもらったものだったと思い出に浸る幸村をよそに、まさが悲愴な声を上げた。眉が情けなく垂れている。
 「てるは116センチだって…」
 いつも一緒にいる、同じくらいの身長の浅井家長男を思い出し、幸村はぷっと吹き出した。
 「大丈夫、まさもすぐに大きくなりますよ」
 「おかーさん、ほんと!?」
 「本当、本当。まさはお父さんの子供でしょう?」
 まさは、肩車してもらった時の視界を思い出すように宙を見上げて、うん、早くおとーさんくらい背が伸びないかなあと柱を見上げた。115.7センチ。政宗や幸村の腰程度しかない身長だが、もうこの子はそこまで育ったのかと、両手に収まる赤ん坊だった頃を思い返して胸がじんとする。
 感慨にふける母の腕に抱かれていたさちは、兄と両親を大きな瞳できょろきょろ眺めまわしていたが、そのうち「んー」とぐずりだした。
 「しゃちもーしゃちもすりゅう」
 近頃のさちは、何でも兄のすることを真似たがる。大抵の場合、意味は分かっていないのだが。
 幸村は思わず笑い出しそうになりながらさちを下ろしてやり、測るのに邪魔な髪を解いてやる。もう一度定規とボールペンを構えた政宗の膝に飛び込んださちに、「おい違うぞさち、柱んとこに立て」と諭しながら手早く印を付け(まさでコツを掴んだらしい)、メジャーで床からの高さを測る。
 「100センチ丁度だな」
 「ひゃくー!」
 おにーたんといっしょーと騒ぎながらさちはまさの方へてちてち走り、まさと一緒に「びよーん」などと叫んで手足を伸ばしている。とらマークのパンツが丸見えだ。
 「ねえ、おとーさんとおかーさんも、高さはかってー!」
 「てー」
 政宗と幸村は顔を見合わせ、そして思わず吹き出した。
 「もう伸びないと思いますが」
 「まあ、測ってみんのもいいだろ」
 楽しくて仕方が無い風情の政宗はメンディングテープを継ぎ足すと、足元に「高いねえ、高いねえ」「ねー」と言い合うまさとさちを従えて幸村の背を測り始めた。幼い頃以来の感覚に少しわくわくする。読み上げられた身長が記憶よりも少し伸びていることに気付いて、「あとは縮むだけだと思っていました」「まだ早ぇだろ」「おかーさん高いねぇ」「ねー」。
 政宗の身長は、幸村では高さが足りなかったので、幸村がまさを肩車して印を付け、政宗が自分で高さを記す。当然のように180を超えた印は、遥か高みに思えるらしく、まさもさちもぽけっと口を開けたままだ。
 「おとーさん、まさもおとーさんくらい大きくなれる?」
 「ああ、あと10年もすりゃ同じくらいにでかくなるさ」
 「しゃちはー?」
 「さちは幸村くらいを目指せ。一番綺麗だぜ」
 「おかーたんー!」
 右足にへばりついたさちの頭を撫でながら、幸村は柱の数字を愛しむように眺めた。気付けば、子供たちはぐんぐん大きくなっていたのだ。まさにはすぐに追い抜かれるだろう。それすら楽しみだ。
 幸村の視線に気付いた政宗が、これから毎月測るか、と呟いた。まさとさちがすぐに同意する。(この家に愛しい場所が増えていく)幸村は、柱が数字で埋められていく未来を、目を細めて待つことにした。





 (あなたたちに会えて、本当によかった)






 さんくすとぅーニキさん!
 120119 J