※小学生政宗→女子高生幸村。+大学生佐助。政宗と佐助はばっちり前世の記憶持ち、幸村はうっすら。そんな頭の痛いパロ。 アスファルトを叩く軽い足音が角を曲がり、門の前で一度立ち止まって、大方息を整えてから飛び石を跳ね、チャイムも鳴らさずに引き戸を開けた。ああ今日も来やがったなあのクソガキ! 「真田幸村! I’m home!」 「ちょっと何がただいまだよ、ここアンタのうちじゃないよ!」 「お待ちしておりましたぞ政宗殿! 学校からここまで、外は寒くはなかったか?」 「お嬢無視しないで! しちゃ駄目! こいつますますつけあがるよ!?」 「この程度の気温、話にもならねーよ。それより今日からWinter vacationだ、毎日来るからな!」 「来るな!」 「望むところ! ところで政宗殿、昼食は終えられましたか?」 「まだ!」 「我らもこれからです。一緒に食べましょうぞ」 「OK!」 「ちょっと進めないで勝手に進めないで!」 丸い頬を紅潮させて(寒さのためか興奮ゆえかなんて考えたくもない)、お道具箱を手提げ袋に入れた子供は22センチの靴を脱ぐ。放り出さずにきちんと揃えるあたりに躾の良さが窺えた、が、家に上がるや幸村に突進していくので佐助としては可愛さ余って憎さ百倍、せいぜい「終業式の日くらいまっすぐ家に帰れ!」と叫ぶと「小十郎には伝えてあるぜ、行き先も成績もな」と携帯を掲げてドヤ顔だ。小学生に携帯なんぞ持たせるもんじゃない。 こちらも終業式を終えたばかりの幸村と、成績が良かった悪かった、宿題が漢字ドリルばっかでつまらねぇなどと盛り上がりながら子供は台所へ向かう。青色のランドセルを背負ったままの政宗は、そのまま勉強教えてと至極まっとうなお願いを装って更に入り浸ろうとしている。旧字まで読めるくせに何を。 帰宅直後のため制服のままだった幸村が着替えに行ってしまってから、佐助はランドセルを隅に片付けている政宗をここぞとばかりに嘲った。 「まさか独眼竜のショタが拝めるとは思わなかったよ」 生まれ変わってみるもんだね。 政宗は、今生ではぱっちり開いた切れ長の双眸をとても小学生とは思えぬ尊大さで眇め、145センチの視点から佐助を見上げて見下した。 「使えるもんは使うべきだろ? なァ、元忍さんよ」 小学生が高校生に勉強を教わるのは実に自然な流れだ。そして幸村は、子供を邪険にする性格ではない。 中身は断じて小学生なんかじゃねぇぇお嬢一回でいいからこのイラつく目を見てくれぇという叫びを噛み殺し、佐助はビーフシチューを小皿によそう。うん旨い。彼の料理の腕は今生でも健在だ。政宗は勝手知ったるなんとやらで皿に白米を盛っている。台所の手伝いならば、他人の彼は家族の幸村よりも優秀だ。各人の食べる量まで記憶しているのだから見事である。 渡された皿にビーフシチューをよそうと、前世よりも少しだけ大人しい足音をさせて、着替えを終えた幸村がひょいっと顔を覗かせた。湯気を上げているビーフシチューに歓声をあげ、幸村は興奮した手つきで出来たての昼食を運ぼうとする。その時、味も素っ気も無い電子音が響いて、耳慣れないメロディに幸村は首を傾げ佐助は音源に目を遣って、政宗は素知らぬ顔で無視をした。 「ちょっと、早く出てよ。うるさい」 「気にすんな、どうせ大した話じゃない」 「そうは言っても政宗殿。まだ鳴っておりますぞ」 出るまで切らねぇぞと言わんばかりの携帯に、幸村がやんわり通話を促す。このまま無視をしては次は軽いお叱りが来るだろう。政宗はとてもとても嫌そうに、ランドセルを開き、携帯のディスプレイを確認して、 佐助は見た。政宗は平然と通話終了ボタンを押した。 「切れた」 切ったんだろうお前が! 政宗はそのまま電源までも落とそうとしたのだが、その前に間髪入れず再度着信音が鳴り出した。幸村の目が非難を帯びる。このままではお叱りは逃れられないと観念し、政宗は小学生らしからぬ重い溜息と共に通話ボタンを押した。 「何だよ。―――Ah? 冗談じゃねえ、テメェらで勝手にやれ」 人の会話を盗み聞きするわけにはいかんと、幸村は作業に集中しようとしていたが、邪険な声を立て続けに上げていた政宗は、しつこい発信者に辟易したのか騒ぎ続ける携帯を相手についに怒鳴った。 「誰がザビーのクリスマス会なんか行くか! オレにはとっくに予定が入ってんだよ!」 そして政宗はついに電源をオフにした。通話口から直前まで響いていた甲高い声は、確かクラスメイトの宗麟くんではなかったか。幸村と一緒に買い物に行った際、幸村にくっついてきた政宗に絡んできた子供を思い出す。ついでにザビーは彼の担任のあだ名である。よく愚痴られるので耳に馴染んだ単語だ。 「政宗殿」 「悪ィ、幸村。早く飯食おうぜ」 「政宗殿、ご友人の誘いを無碍にしてはなりませんぞ」 友情に厚い幸村はすとんと腰を落とし、政宗と目線を合わせるようにして言い聞かせる。政宗はぐっと整った眉を寄せ、「Christmasは、アンタと過ごすって決めてんだ」そして細い腕で幸村に抱きつく。本人としては抱きしめている感覚なのだろう。しかし見た目は完全に甘える子供だ。「約束しただろ? アンタと一緒にいたいんだ」呆れた! 中身はあの伊達だから考えれば当然だが、だが、だが言ってやる、小学生のくせにとんだマセガキだ! 佐助が呆れるやら頭痛を覚えるやらしていると、政宗にとっては気の毒に幸村は悪気の無い笑顔で言った。 「某とは毎日会えるのでござろう? 同年代の友人と遊ぶのも良いものですぞ」 あーこれはちょっと可哀相だ。政宗は、こんな時ばかり本当に子供のように素直にショックを現して、それでも幸村の笑顔が変わらないので暗い顔で項垂れた。 「………すぐこっち来るからな。Present期待してろ」 「うむ! ああ、プレゼントと言えば、家康殿も政宗殿に下さるそうですぞ」 「いっ、いらねぇ!」 「そう嫌ってやらんでくだされ」 お嬢そりゃ無理だ。佐助は苦笑い気味に小さな竜を見る。幸村のクラスメイト、家康は、小さくなってしまった政宗にとって最大のライバルだ。幸村と並んでも姉弟にしか見られない彼にとって、身長180センチ筋肉質の高校生がどれほどの脅威か、幸村は全くわかっていない。猫が毛を逆立てるそのままの反応だから、わかりやすいもんなのにと佐助は思う。 優しく政宗の頭を撫でた幸村は、少し冷めてしまったビーフシチューの盆を座敷に運んで行った。無言で足元を睨んでいる政宗に、佐助は軽い同情を投げてやる。政宗には嫌味にしか聞こえないだろうことは織り込み済みだ。 「7歳の差は大きいねえ」 何しろ完全に子供扱いだ。毎回のラブコールは完全にスルーだ。 不気味なまでに沈黙していた政宗は、途端ギッと顔を上げ、冷蔵庫に猪突猛進した。 「Shit! 猿、テメェこれからコンビニ行って来い! 牛乳買い占めて来い!」 「は!? やだよ、喉渇いたならお茶飲めば」 「オレはこれから牛乳しか飲まねえ!」 見てろ、オレの成長期はこれからだからな、180センチなんて余裕で越えてやるからなあああ! 絶叫した子供は、宣言通りそれから一日1リットルを日課にし、武田家と伊達家の冷蔵庫における牛乳の回転率は飛躍的に上がることになる。可愛らしいというにはマセた恋の渦中にある政宗が、どれだけ早く子供扱いを脱するかは、牛乳のみぞ知、る? 牛乳に相談だ。 |
夜さんのネタに盛りあがってつい 伊達がショタい(笑) 111223 J |